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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2659号 判決

全東栄信用組合

理由

原告主張の請求原因事実については争いがないところ、被告の抗弁についてはこれを認めるに足る証拠がない。これを詳述すれば、成立に争いのない、乙第一号証の四および五、並びに右各号証により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし三によつては、被告が本件手形金を支払つたものと認めることはできないし、また、乙第一号証の四および五、および前出甲第三号証によれば、同手形の裏面に存在する全東栄信用組合の手形金受領印と本件手形(甲第三号証)の裏面に存在する同組合の記名捺印とが同一のものであることを認めうるが、成立に争いのない乙第一一号証によれば、本件手形における右記名捺印は同組合が千代田産業株式会社に後記認定のように本件手形を裏書譲渡し、同会社から右手形の対価の入金があつたときに同組合の係員が支払呈示による手形金の支払があつたものと誤認して記名捺印したものと認められ、本件手形上の債務者である被告から手形金を受領して記名捺印したものと認定することはできない。

成立に争いのない乙第二および三号証によれば、被告は昭和二八年四月一三日全東栄信用組合との取引を解約し、同組合から定期積立金四七万七、〇〇〇円の支払を受けたことが認められ、本件手形の支払期日当時も同組合に対しては債務を負担せず、本件手形の支払をなすに足る預金を有していたことも推認しうるが、右預金の存在をもつて直ちに本件手形金の支払があつたものということは到底できず、かえつて千代田産業株式会社が本件手形の対価を同組合に払い込んだがために被告の同組合に対する借入金残高が残らなかつたにすぎないと認められるのであつて、乙第一三号証に被告の同組合および原告に対する債務が記入されていないのもそのためにほかならないものと認定できる。成立に争いのない乙第五号証および乙第一二号証によつても右認定を覆えすには足りず、他に被告の抗弁事実を認めるに足る証拠はない。却つて公文書(口頭弁論調書)にして真正に成立したと認められる甲第八号証、成立に争いのない甲第三号証、および上記認定の事実によれば、被告は原告から提出された本件手形を全東栄信用組合に裏書譲渡して金融を受けたが、期日に至るも本件手形の回復の方法を講せず、原告もまた被告が決済する旨の約定の履行を期待して右手形金の支払をなさなかつたので、本件手形が不渡となり、同組合は通常の取引銀行によれば本件手形を被告に返還して被告に対して昭和二七年一〇月三一日貸付けた金員の返還を請求すべきところ、同組合理事長大野定次郎は本件不渡手形を担保に貸付をなした組合の経理に損失を生ぜしめないように計り、株式会社千葉銀行から本件手形の返還を受けると直ちに昭和二八年一月一四日頃千代田産業株式会社に同月九日付で裏書譲渡して右会社から本件手形の対価を右組合に交付させた結果、原告が同会社から本件手形金の支払を請求されるに至つたものと認められる。のみならず被告が全東栄信用組合から本件手形を受戻していないことが明らかである。

そうだとすれば、原告の本件手形金三〇万円およびこれに対する昭和二八年一月一〇日から同三六年四月一三日までの手形法所定の遅延損害金一四万八、七〇〇円並びに支払を余儀なくされた前記執行費用一万四、一九五円の支払による損害は被告が本件手形金の支払をしなかつたことによつて生じたものというべきである。よつて原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを正当として認容し……。

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